11人きた!【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」44品目 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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11人きた!【新保信長】「食堂生まれ、外食育ち」44品目

【隔週連載】新保信長「食堂生まれ、外食育ち」44品目

 

 そこで男はサラッと言った。「11人なんですけど、大丈夫ですかー?」。

 はぁ!? じゅういちにん? いや、キャパ的には全然いけそうだが、いきなり11人て、『11人いる!』かよ! と、マンガ好きとしてはツッコまずにいられない。まあ、飲み会の流れで二次会の場所を求めてたどり着いたパターンなら、それぐらいの人数もありえるかとは思ったが、自分一人でまったりしてたところに11人来たのには意表を突かれた。

 おねえさんは「確認しますので少々お待ちください」と一旦引っ込んだが、席はめっちゃ空いてるので問題なく受け入れられた。しかし、これは忙しくなるぞ。料理を頼むなら今のうちだ! と確信した私は、追加でカマンベールとベーコンのアヒージョを注文。同時にグラスの赤も頼む。

 さっきまでヒマそうにしてたバーテンダーのにいちゃんは、11人分のドリンクを作るのにてんやわんやである。そろいもそろってビールやワインではなくカクテル的なものを注文していて、何だかややこしいやつもオーダー入っているようだ。11個のグラスを並べて片っ端から作っていく様子はなかなか壮観で、動画に撮りたいほど。もはや私とムダ話をする余裕はないが、赤ワインはすみやかに提供してくれてありがたい。似たようなグラスの似たようなカクテル11人分を間違えずにサーブするフロアのおねえさんもすごい。 

 機先を制して注文した甲斐あって、カマンベールとベーコンのアヒージョも、さほど待たされずに出てきた。8等分にカットした小ぶりのカマンベール丸ごとと、ベーコン、トマト、ブロッコリー、ジャガイモが入ったアヒージョはバカうまで、赤ワインに合いまくり。これは正解! と自分で自分をほめつつ、グビグビ飲んでバクバク食う。もちろん赤ワインはおかわりだ。今度ははっきりと盛りがいい。いいぞ、その調子! 

 とか何とか一人で盛り上がってるうちに、また新規の客が来た。今度は5人。そして、すぐあとにまた4人来たと思ったら、さらに5人来た。遅い時間ほど混むタイプの店だったか。しかし、店側のスタッフは、私の見たところ、厨房に1人、バーテンダー1人、フロアに1人の3人しかいない。バーテンダーのにいちゃんはマシンのようにカクテルを作り、それをフロアのおねえさんが運んでいく。最初に入店したときはのんびりした印象だったが、実は優秀なスタッフだったのだ。

 とはいえ、さすがにヤバいと思ったのか、途中で急遽呼び出された感じの店長(オーナー?)みたいなおじさんがやってきた。が、そのムロツヨシ似のおじさんは、メジャー通算50発という触れ込みの助っ人外国人ぐらい戦力にならない。役職的にはたぶん一番上なんだろうけど、現場ではあわあわしてるだけで、まるで役に立っていないのであった。

 もはや私のことなど眼中にないが、それでいい。頃合いを見計らってお勘定をお願いし、入店時とは打って変わってにぎやかな店をあとにする。チャージも含めて決して安くはなかったが、面白かったのでヨシ。

 ちなみに『11人いる!』は萩尾望都の名作SF中編で、閉鎖空間の宇宙船で選抜試験を受ける候補生が10人のはずなのに1人多かったという話。正体不明の潜入者をめぐって疑心暗鬼になるサスペンスドラマである。宇宙船じゃなくてこういう広いお店なら、10人も11人も一緒だろう。でも、できれば事前に連絡したほうがいいよね、とは思う。

 

 文:新保信長

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新保信長

しんぼ のぶなが

流しの編集者&ライター

1964年大阪生まれ。東京大学文学部心理学科卒。流しの編集者&ライター。単行本やムックの編集・執筆を手がける。「南信長」名義でマンガ解説も。著書に『国歌斉唱♪――「君が代」と世界の国歌はどう違う?』『虎バカ本の世界』『字が汚い!』『声が通らない!』ほか。南信長名義では『現代マンガの冒険者たち』『マンガの食卓』『1979年の奇跡』など。新刊『漫画家の自画像』(左右社)が絶賛発売中です!

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